法華経を聞くために奴隷になる
釈迦牟尼如来は、最も卓越した法(法華経)を求めて、法華経を与えてくれる人の奴隷になると宣言する。その時、一人の仙人が法華経を聞かせると告げたので、喜んで仙人のために奴隷の仕事をすることを承諾した。提婆達多こそがその仙人であり、私の善知識であった。法華経を得てブッダとして成し遂げたことのすべては、提婆達多のおかげなのだ。
法華経を聞いて疑わず清らかな心を持って信順する人は誰であっても、ブッダの国土に生まれ、誕生のたびごとに法華経を聞き、卓越した地位を獲得するであろうと説く。
八歳の龍女の成仏
その時、釈迦牟尼如来は、帰ろうとする智積菩薩を呼び止めて、文殊師利菩薩と法について議論した後で帰るように告げると、文殊師利菩薩が大海のサーガラ龍王の宮殿から空中に上昇し、釈迦牟尼如来に近づき挨拶する。
法座を譲られた文殊師利菩薩は、大海の中で白蓮華のように最も勝れた正しい教え(法華経)という経を説いたと語る。智積菩薩は、法華経は深遠で微妙であり、この経を理解できる衆生がいるのかと問う。文殊師利菩薩は、「サーガラ龍王の娘(龍女)は八歳で、大いなる智慧をそなえ、研ぎ澄まされた能力を持ち、如来が説かれた象徴的表現の意味を会得している。広大なる誓願を持ち、一切衆生に対して慈愛に満ちた心を持ち、慈しみの言葉を語るのだ。 その龍王の娘 は、正しく完全な覚りを得ることができるのだ」と主張することで問答がはじまる。
智積菩薩は、「釈迦如来は、幾千という多くの劫にわたって菩薩であり、努力精進して、覚りを得られた。それに比べて、サーガラ龍王の娘が、一瞬のうちに覚りを 得ることができるということを信じることはできない。」と言う。
その時、サーガラ龍王の娘が現れ、世尊に挨拶し、「私にとって完全なる覚りは思うがままで、衆生を苦しみから解き放つ広大な法を説きましょう」と言う。
舎利弗尊者は、「女性は、どんなに努力精進し、諸々の善行をなし、六波羅蜜を成就しても、ブッダの位に達した前例はない。理由は、女性は五つの位(梵天・帝釈天・大王・転輪王・菩薩)に到達したことはないからだ。」どちらも龍女が成仏することができると信ずることができない。
すると、サーガラ龍王の娘は、舎利弗尊者に対しては変成男子してみせ、智積菩薩に対しては、菩提樹の根もとに坐って即座に完全な覚りを開き、光明によって十方を照らして説法する。この龍女成仏は「諸行無常」「諸法無我」の理(ことわり)をあらわすとともに、法華経の功徳を物語る。また、その説法を聞いた衆生のすべてが、この上ない正しく完全な覚りにおいて不退転となった。そして、その世界と、この娑婆世界は、六種類に震動した。すると、智積菩薩と舎利弗尊者は沈黙してしまった。